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【50億キロの旅路 「はやぶさ」帰還へ】(下)挑戦の数々ほとんど達成(産経新聞)

 ◆重力の50倍

 小惑星探査機「はやぶさ」は、今年3月にイオンエンジンの連続運転を終え、現在は慣性飛行で地球に向かっている。体操競技の鉄棒に例えると、バーから手を離し、空中で姿勢を微調整して着地に備えている段階だ。

 地球まで約4万キロに近づく6月13日夜、カプセルを分離し大気圏に再突入。はやぶさの本体は大気圏で燃え尽きるが、オーストラリアの砂漠にカプセルを落下させ、無事に回収できれば“着地成功”だ。

 カプセルは直径約40センチで、外見は「ふた付きの中華鍋」。米スペースシャトルの1・5倍に相当する秒速12キロで大気圏に飛び込む。

 このとき、3千度の高温にさらされ、急激な減速によって受ける力は重力の50倍に達する。製造した宇宙機器メーカー「IHIエアロスペース」の担当部長、松田聖路は「要求される性能が高く、何度も試験を繰り返した」と語る。

 高度1万メートル付近でパラシュートを開き、軟着陸させる計画だが、米国ではこの段階で失敗したケースもある。

 開発にかかわった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の准教授、山田哲哉は「搭載機器の収納性やパラシュートの開き方なども考慮した。満身創痍(そうい)のはやぶさが狙った場所にカプセルを落とせるか、これからが本番」と話す。

 ◆試料回収

 帰還を目前にしたはやぶさは、すでに数々の成果を挙げている。新技術のイオンエンジンで、地球の重力を利用した加速(スイングバイ)に世界で初めて成功。自律航行の技術を実証し、運転継続時間も大幅に記録を更新した。

 小惑星「イトカワ」への着陸前には、2カ月以上も上空から地形や鉱物組成、元素分布などを観測。その成果をまとめた7本の論文は米科学誌「サイエンス」の特集号に掲載された。

 惑星科学の研究者は、カプセルの中身に大きな期待を寄せる。カプセル回収後に初期分析を担当するJAXA教授の藤村彰夫は「小惑星から試料が直接手に入れば、どんな微量でも、研究レベルは大きく向上する」と話す。

 カプセルは厳重に管理され、相模原市のJAXA宇宙科学研究所へ運ばれる。大きさが0・2ミリを超える物質が入っていれば、直後のX線検査で見つかるという。

 収集容器の開封は内部が真空に保たれた専用設備で実施。藤村は「50年後の科学者に『当時としては頑張った』といわれるようにしたい」と、“イトカワの石”との対面を心待ちにしている。

 ◆次代へ継承

 JAXAは、後継機「はやぶさ2(仮称)」の開発を計画している。別の小惑星から有機物を含む岩石試料を持ち帰り、生命の起源に迫るという。まとめ役のJAXA准教授、吉川真は「はやぶさで、さまざまなトラブルを乗り越えた経験が生きる」と話す。

 岩石試料回収の成否はまだわからないが、はやぶさは遠く離れた天体への往復と試料回収に必要なすべての技術に挑み、そのほとんどを達成した。長年、チームを率いてきたJAXAプロジェクトマネージャ、川口淳一郎は感慨を込めて帰還を待つ。

 「私たちとともに難関を越えてきた。もはや、はやぶさを機械だとは思えない。本当によく頑張った」=敬称略

 (小野晋史)

                   ◇

【用語解説】イトカワ

 平成10年に米国チームが発見した小惑星で、名称は日本の宇宙開発の父、故糸川英夫博士に由来。全長約540メートルでかりんとうに似た形状。表面は主に細かい砂粒で覆われた部分と岩石が露出した部分に分かれる。天体同士の衝突でできた破片が集まり、数千万年前までに生まれたとされる。重力は地球の10万分の1以下。軌道は地球や火星の近くを通過し、公転周期は約1年半。

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by x1r6uu5cu9 | 2010-06-07 19:17